6坪の立ち飲みはなぜ成立する? 船橋の新店に学ぶドリンク戦略
飲食業界において、2店舗目の出店は大きな壁であり、同時に飛躍のチャンスでもあります。
好立地で広い物件を狙うのか、それとも小さな物件で勝負するのか?
千葉県船橋市で人気のバル「イタリアン&ワイン食堂 ViVi」が、歩いてわずか3分の場所にオープンした2店舗目「Tipsy(ティプシー)」は、なんと「1階3坪・2階3坪」の極小物件でした。
「家賃は20万円。今は1階の3坪だけで回しています(取材した2月時点)」
一見すると割高にも思えるこの極小の立ち飲み屋には、これからの飲食店経営のヒントとなる緻密な戦略が隠されていました。
3坪の店舗は「広告宣伝費」。既存店との相乗効果を狙う
わずか3坪(1階部分)のスペースですが、この店には単なる「売上獲得」以上の役割がありました。
【柏田さん】
「イメージとしては『広告宣伝費』なんです。既存の広告宣伝費をここに入れているようなもの。メイン通りでここが賑やかになれば、ここに入ってくれたお客さんが既存店に行ってくれたり、逆に向こうからこっちに来てくれたりするという戦略です。」
小さな立ち飲み屋を「街のハブ」として機能させ、2店舗間でハシゴ酒の回遊を生み出す。
船橋の「ハシゴ酒文化」を自社内で完結させる見事な導線設計です。
足で稼いで勝ち取った「未公開物件」
この好立地をどうやって手に入れたのでしょうか。
【柏田さん】
「基本的には未公開のまま、知っている人への声かけで決まってしまう街です。だから、不動産屋さんに足繁く通って『もし良い物件が空くならお話を聞かせてほしい』としつこく伝えていました。」
門前払いされながらも通い続けた結果、公開前の物件情報をいち早くキャッチ。
スケルトンではなく居抜きで入ることで初期投資も抑え、わずか3週間ほどでオープンに漕ぎ着けました。
「ミールキット化」と「引き算」による極小キッチン戦略
そこで徹底されたのが、オペレーションの合理化とターゲット層に合わせたメニューの「引き算」でした。
【柏田さん】
「ある程度は既存店で作って、ミールキットみたいにしてすぐ出せるようにしています。また、1店舗目は2名客がメインですが、こっちはおひとり様がターゲット。なのでカルパッチョは3種盛りから1種類(真鯛だけ)にしたり、ローストポークはバケットを付けずにおつまみ感覚でそのまま出したりと、ポーションを少なく変化させています。」
同じ素材を使いながらも、提供方法を変えることでロスを防ぎ、狭いキッチンでもスムーズに回る仕組みを構築しています。
原価を抑え、ストーリーを売る「オリジナルワイン」
ライチの香りがする華やかなフレーバー焼酎(ダイヤメ)などを500円で提供し、普段焼酎を飲まない層や、逆に年配の男性客層まで幅広く獲得しています。
そして最大の武器が、船橋のワイナリーで醸造したオリジナルのナチュール(オレンジ)ワインです。
山形のデラウェアを船橋に持ち込んで醸造したこのワインは、無濾過で旨みを閉じ込めています。
【柏田さん】
「自分たちでワインを作るとなると高いイメージがありますが、ワイン自体の価格が上がっている今、むしろ原価は抑えられます。チリワインと同じくらいの値段で作れるんです。そこに『プラスでストーリーが乗っかる』ので、お客さんも求めてくれやすく、売りやすいですね。」
安く仕入れて高く売るのではなく、自分たちでイチから作ることで原価を抑え、「ここでしか飲めない」というプレミアム感とストーリーを付加する。
お客さんもその思いに共感し、結果としてブランド価値が高まっていきます。
3坪の店舗を広告塔として使い倒し、オペレーションを極限まで削ぎ落とし、地元醸造のオリジナルドリンクで熱狂的なファンを作る。
船橋の極小立ち飲み屋「Tipsy」の成功は、単なる多店舗展開ではなく、街の特性と徹底した合理化、そして「ストーリー」を掛け合わせた、新時代の飲食店経営のモデルケースと言えるでしょう。
本記事の動画:6坪の立ち飲みはなぜ成立する?船橋の新店に学ぶドリンク戦略
撮影協力:イタリアン&ワイン食堂 ViVi
オーナー 柏田 優さん
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