理想のパン屋を開くには? 許認可や資金など開業までの流れを総まとめ

いざパン屋を開こうと考えても、事前にすべきことが分からなければ行き詰ってしまいます。まずは開業に必要な知識、許認可や資格、費用について把握する必要があります。この記事では、パン屋を開くまでの具体的な流れを解説していますので、ぜひ参考にしてみてください。

目次

パン屋を開くための基礎知識

パン屋を開くためには、どのような知識が必要でしょうか。まずはさまざまな情報を収集し、基礎的な知識を身につけましょう。

お店のコンセプト・メニューを明確に

戦略やコンセプトを持たずにパン屋を開いても、うまくいきません。人気のパン屋は多いため、競争に勝つのはとても難しいことです。 パン屋を開くにあたって大切なのは、まず店のコンセプトを明確にすることです。下記のように項目を決め、コンセプトを決めていきましょう。

誰に?

  • ターゲットとする客層(性別、年代、家族構成)

何を?

  • パンの素材(材料、原産地)
  • パンづくり(製造、仕入れ)
  • パンの種類(菓子パン、総菜パン、食パン)

どのように販売する?

  • 店の形態(イートイン、テイクアウト可、ネット販売)

自分本位のコンセプト決めではなく、市場ニーズも満たしたコンセプトづくりが必要です。流行や競合店について市場調査を入念に行い、お店のコンセプトに反映させましょう。競合店と明確な差別化を図ることが大切です。

パン屋の仕事内容を把握する

パン屋を開くといっても、パン屋の仕事はパン作りだけではありません。下記に示す例のように、その仕事は多岐にわたります。

  • パン作り
  • 材料の仕入れ
  • 商品開発
  • 価格の設定
  • 販売
  • 接客
  • 在庫管理
  • 宣伝
  • 経理

自分の店を持つならば、パンづくりの知識に加えて、経営にかかわる知識や学びも不可欠です。経営者として、各仕事に必要な知識や情報を得ましょう。

店舗の立地・内装を決める

店を開くならば、一般的には人通りが多く目につきやすい場所を希望するでしょう。しかし、利便性に優れた人気の場所はすでに競合店があったり、賃料も高く設定されていたりします。一方、賃料が安い場所は人通りが少ない傾向があります。賃料や人通りだけで選ぶのではなく、ターゲットとする客層にとって望ましい立地という視点から考えるとよいでしょう。 家族向けの場合、人通りが少ない場所でも駐車スペースがあれば繁盛するかもしれません。学生向けであれば、学校の近くで駐輪スペースを設けられる場所がおすすめです。

いくつか候補地を決め、不動産サイトなどで近隣の賃料相場などをしっかり調べる必要があります。人通りは時間帯や曜日により異なりますので、候補地に足を運び、ターゲットとする客層の流れを把握しましょう。

内装は、店のコンセプトや予算に合わせて考えましょう。まずは開業にあたり必要な機器・器具類の購入を優先し、残りの費用で内装を考えるとよいでしょう。

パン屋を開くための許認可・おすすめの資格

パン屋を開くには、多くの許認可や資格が必要です。必須の許認可や資格と、取得したほうがよい資格を押さえましょう。

【必須】食品を取り扱うなら必須の食品衛生責任者

食品衛生者は、店で販売される食品の衛生管理の担当者です。パン屋に限らず食品を扱う場合は、許可施設ごとに食品衛生責任者を置くことが条例によって義務づけられています。 経営者もしくは従業員の一人が食品衛生責任者であれば開業できます。 食品衛生者の資格は、各自治体が行う養成講習会に参加して試験を受けることで取得可能です。

【必須】お店を営業するための飲食店営業許可

飲食店営業許可は、飲食店を営業するために必須の許可です。店内にイートインスペースを設けたり、サンドイッチなどの調理パンを販売したりするならば、飲食店営業許可が必要です。 まずは保健所に店の設計図・図面を持参し、事前相談をします。店の工事完了の10日ほど前になったら、下記の書類を提出しましょう。

  • 営業許可申請書
  • 構造・設備の図面
  • 食品衛生者の資格を証明する書類
  • 水質検査成績書
  • 手数料(18,300円ほど ※各自治体により金額は多少異なる)

申請後、防火の観点から構造に問題がないかや、厨房やトイレなどの設備ついて、保健所から立入検査を受けます。飲食店には、以下の項目につき一定の基準が定められています。

  • 冷蔵設備
  • 洗浄設備
  • 給湯設備
  • 客席
  • 客用便所

問題がなければ許可が下りますが、不備があれば改善・修正して再度立入検査を受けなければなりません。

申請から営業許可証の交付までに必要な期間は最短でも半月ほどです。余裕をもってスケジュールを組むことをおすすめします。条件や流れなどは保健所によって異なる場合があるため、不明点があれば問い合わせましょう。

【必須】菓子パンを売るなら菓子製造業許可

あんパンやクリームパンなどの菓子パンを製造・販売するならば、菓子製造業許可が必要です。食パンも「菓子」に分類されるため、許可が必要になります。菓子製造業許可を得る手続きは、飲食店営業許可を得る場合とほぼ同じです。手数料は16,800円ほどですが、自治体により異なる場合があります。 各自治体の保健所に事前に相談をして必要書類を提出します。その後、保健所の担当者が基準を満たした施設であるかを検査し、許可証が発行されます。

菓子製造業で必要な基準は、以下の通りです。

  • 施設及び区画:必要な設備を作業区分ごとに区画する、作業場外に原料倉庫を置く
  • 機械器具:必要な器具や冷蔵設備を設ける

販売するパンの種類によっては、飲食店営業許可と菓子製造許可などの複数の許可が必要であり、それぞれの基準を満たす施設・設備を作らなければなりません。

【必須】パンを売るための食料品等販売業許可

食料品等販売業許可は、弁当や食肉製品などの、調理加工をせずに食べられる食品を販売する場合に必要です。この許可を得る手続きは、飲食店営業許可などとほぼ同じで、販売する食料品・業種により手数料が異なります。 営業施設の構造や食品取扱設備、給水・汚物処理について基準があり、さらに以下の特定基準が設定されています。

  • 取扱量に応じた陳列ケースを備えること
  • 冷蔵設備は、常に5℃(法に保存基準が定められているものは、それによる)以下に冷却できる能力を有すること
  • 運搬容器はふたがあり、専用のものであること
  • 瓶に入れられた発酵乳又は乳酸菌飲料を扱う場合は、汚染防止の設備基準をした空瓶置場が設けられていること

保健所の担当者がこれらの基準を満たしているか検査した後に、許可証が交付されます。

パン作りの達人を目指すパン製造技能士

パン製造技能士は、厚生労働省が認定する国家資格のひとつです。技能検定を実施するのは中央職業能力開発協会(JAVADA)であり、試験を主催するのは各自治体の職業能力開発協会です。特級・1級・2級に分かれており、実技試験と学力試験の両方に合格する必要があります。 下記の条件を満たすことで、受検が可能です。

  • 2級:2年以上の実務経験が必要
  • 1級:7年以上の実務経験
  • 特級:1級合格後、5年以上の実務経験が必要

受検料は学科試験で3,100円、実技試験で18,200円ほどですが、各自治体により多少異なる場合があります。この資格があればスキルの証明にもなりますし、店の宣伝にも使えますので、取得を検討してもよいでしょう。

その他パンに関する資格

他にもパンに関わる資格はさまざまなものがあります。

  • パンアドバイザー
  • パンコーディネーター
  • パンシェルジュ

パンアドバイザーは、一般社団法人の日本野菜ソムリエ協会が認定します。パンの知識を身につけ、魅力を社会に伝えることを目指しています。取得には、講座への出席や修了試験、課題提出が必要です。

パンコーディネーターは、一般財団法人の日本生涯学習協議会が監修・認定し、日本パンコーディネーター協会が主催するものです。製造を除くパンのプロフェッショナルを目指すもので、3つの資格があります。講座受講後に試験を受ける形式です。

パンシェルジュは、パンシェルジュ検定運営委員会が主催しており、1~3級に分かれています。公式テキストで勉強してから受験するものであり、パンについての幅広い知識が問われます。 上記の資格はいずれも民間資格ですが、取得すればスキルアップにもなりますし、店への信頼につながるかもしれません。

パン屋を開くための資金はどれくらい必要?

パン屋を開くためには、どれほどの資金が必要なのでしょうか。初期費用や運営資金について理解し、資金の調達方法も押さえましょう。

パン屋の開業に必要な初期費用について

パン屋を開くためには、高額な初期費用が必要です。初期費用の相場は2,000~3,000万円ほどです。居抜き物件を借りて設備や機器をそのまま使ったり、中古の機器を使ったりと節約をすれば費用を削減できますが、それでも1,000万円以上は必要でしょう。 初期費用の内訳について、例を以下に示します。

  • 物件取得費(敷金・礼金・仲介手数料など)
  • 設備費用(オーブン、ミキサー、冷蔵庫など)
  • 内装・外装工事費用
  • 資格・許認可の取得費用
  • 原材料費
  • 備品代
  • 人件費
  • 広告宣伝費(チラシ、HP制作)

物件取得費は、立地や店の面積・形態により変化します。厨房にはオーブンやガスコンロ、ニーダーやフライヤーなどの多くの機材が必要で、なかには高額な機材や設備もあり、新品でそろえれば600万円ほどかかる場合があります。

お店を続けるための資金はどれくらい必要なのか

パン屋を開いてからは、運営資金が毎月かかります。運営資金の目安は、1か月あたり100~300万円ほどであり、内訳は以下の通りです。

  • 賃料
  • 原材料・仕入費
  • 水道光熱費
  • 備品代
  • 人件費
  • 広告宣伝費
  • 税金(法人税、法定福利費など)

原材料の品質が高いほど費用はかさむため、高品質のものを低価格で仕入れる努力も必要です。備品の中では、毎日必ず消耗する手袋などの衛生用品代が大きなウエイトを占めます。

上記の例以外に、会計事務所などに経理を依頼する場合は、さらに費用が必要です。融資を受けた場合は、毎月返済をしなければなりません。 経営状態が安定するまで、少なくとも数か月はかかるでしょう。当面の運営資金や生活費も踏まえたうえで資金の準備をしておきましょう。

金融機関からの借入も活用する

パン屋を開業するには多額の資金がかかります。運営資金も加えると2,000万円以上は必要になるでしょう。全額を自己資金で用意するのは難しいので、下記の方法で資金を調達するのが一般的です。

  • 日本政策金融公庫の融資
  • 民間の金融機関・各自治体の融資
  • 助成金・補助金

融資を受けるには、審査に通る必要があります。日本政策金融公庫の新創業融資制度では、希望する融資額の10分の1以上の自己資金があれば融資を受けられることになっていますが、少なくとも1/3ほどまでは自己資金があるようにしておくのが理想です。当制度は低金利で、担保や保証人も原則不要です。

民間の金融機関や各自治体からの融資は、審査が通るまでに時間がかかります。助成金や補助金の審査も時間がかかりますが、返済が不要なので申請するのも有効なひとつの手です。 審査に通るには、自己資金に加えて過去の実績や経歴、事業計画などが重視されます。

パン屋を開業するまでの流れ

パン屋を開業するまでに、どのような手続きや流れが必要でしょうか。各プロセスについて把握しましょう。

1. 製パンの技術を学ぶ

パン屋を開くにあたり大切なのは、おいしいパンを作ることです。おいしいから必ず売れるとは限りませんが、おいしいパンでなければ売れないでしょう。おいしいパンの製造には確かな知識と技術が不可欠です。 独学でも知識・技術を身につけられますが、下記に示す方法がおすすめです。

  • 専門学校・パン教室に通う
  • パン屋で働く
  • 企業でパンの製造研修を受ける

働きながら学ぶ、学校に通いながら学ぶなど、開業までのプロセスは人それぞれですが、知識だけではおいしいパンの製造はできません。パン屋で修行して、パンの製造や販売の経験を積み、発酵時間や焼き加減などのコツをつかみましょう。毎日、同じ品質のパンをつくれるように努力することが大切です。

2. 経営知識を身に付け、パン屋のビジョンを明確にする

パン屋を経営するには、パンの製造だけでなく、価格の設定や原価計算、在庫管理や棚卸など、多くの業務をこなす必要があります。

そのためパンの知識だけでなく、経営や集客の方法についても知っておかなければなりません。書籍やセミナーで知識を得る、専門学校に通うなどをして、事前に情報を調べておきましょう。 得た知識や情報をもとにコンセプトやビジョンを明確にしたら、事業計画書を作成しましょう。資金調達や事業の見直しをするのに役立つ事業計画書には、以下の項目を記入します。

  • 創業の動機
  • 経営者の略歴
  • 取扱商品・サービス
  • 取引先・取引関係者
  • 従業員
  • 借入の状況
  • 必要な資金と調達方法
  • 事業の見通し

事業計画書を作成することで事業を客観視でき、改善点が見つかるかもしれません。簡潔かつ丁寧に意欲を伝えましょう。

3. 物件を決めて内外装の工事を進める

店のコンセプトや事業計画書が完成したら、店を開く場所や物件を探しましょう。ふさわしい物件を見つけ、契約したら内装・外装工事を依頼します。

業者と打ち合わせて、店のイメージや内装・外装の希望を具体的に伝えます。見積もりをもとに検討を重ねて、合意ができたら契約・着工し、完成するという流れです。工事費用は高額であり、一度設置した設備は基本的に変更できないため、見積もりは複数の業者に依頼し工事内容や費用を比較してから決めましょう。

パン屋は、他の飲食店に比べて特殊な機器や設備を多く設置する必要があります。居抜き物件を借りるならば不要ですが、給排水設備、左官工事、電気工事などさまざまな工事をしなければなりません。そのため、飲食店工事に慣れており、かつパン屋の内装・外装工事の経験がある業者に頼むとよいです。工事期間は、変更や延期になることもことも想定して、1か月ほど設けておきましょう。

4. 開業するための手続きを済ませる

開業するには、さまざまな手続きや許認可が必要です。販売するパンの種類や販売形態によって、申請すべき許認可は異なるため、事前にしっかり調べることが大切です。許可を取らずに開業すれば違法営業になってしまうので、注意しましょう。

必要な許可や申請は、食品にかかわるものだけではありません。消防署や税務署に、以下の手続きや申請が必要になる場合があります。

消防署

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