飲食店の深夜営業に必要な許可・届出とは? 手続きや注意点を解説

飲食店が午前0時以降にお酒の提供をメインとして深夜営業する場合は許可が必要です。しかし、届出を提出する所轄の警察署によって審査の基準が異なる場合があるので、スムーズに深夜営業に取り組むには事前準備が大切です。この記事では、深夜営業を考えている経営者に向け、深夜営業に必要な書類や注意点などについて解説します。

目次

深夜営業の許可・届出が必要になる飲食店とは

飲食店が深夜営業の許可と届出が必要になる条件については風営法に明記されていますが、簡単に解説すると下記の2つの条件が挙げられます。

  • 深夜を午前0時から午前6時までと定義し、その間に営業する
  • アルコール類をメインとして提供する

深夜営業、かつアルコール類をメインで提供する飲食店は届出が必要です。米飯やパン、麺類などの主食をメインとして常に取り扱う飲食店はアルコール類を提供しても、届出は必要ありません。深夜まで営業しアルコール類も提供している定食屋やラーメン店などは届出の必要はないということになりますが、その判断をするのは所轄の警察署です。違反すれば罰金や営業停止処分を科せられるので、自己判断せず確認しておきましょう。

届出の要件や必要な手続き、違反した場合の罰則について、以下に解説します。

風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律の詳細を見る

深夜営業できる飲食店の要件とは

深夜営業は届出をすればすべての飲食店に許可が下りるわけではありません。立地と設備に関する要件を満たす飲食店のみに許可が下ります。

立地と設備の要件についての詳細は、以下のとおりです。

立地に関する要件

用途が制限されている地域には「住居系」「商業系」「工業系」の3種類があります。この内、深夜営業の許可が下りるのは商業系と「工業専用地域」を除く工業系の地域です。「住居系」は、「第一種住居地域」や「第二種中高層住居専用地域」など細分化されていますが、すべての住居系の地域において深夜営業の許可は下りません。

ただし例外もあり、商業地域の周囲30m以内の「住居地域」と「準住居地域」は、深夜営業が認められています。一方、保全対象施設の100m以内は深夜営業の許可が下りない可能性があります。保全対象施設とは、学校や病院、児童福祉施設、図書館などです。

また、これらの立地要件は各自治体の条例によって異なるため、必ず、自身が開業を希望する地域の自治体に確認しましょう。

店舗の設備に関する要件

店舗の設備において、「床面積」「遮蔽物」「明るさ」の3つに関して要件を満たす必要があります。客室が一室しかない場合を除き、二室以上ある場合は各床面積が9.5㎡以上でなければいけません。午前0時以降は9.5㎡未満の客室は使用せず、9.5㎡以上の客室のみを使用することで営業許可が下りるケースもありますが、所轄の警察署によって判断が異なるので確認が必要です。

概ね1m以上の見通しを妨げるパーティションや観葉植物などの遮蔽物がないことも要件に入っています。どの地点を基準にして見通しを妨げていると判断するかは所轄警察署によって解釈が異なるので、この要件についても確認が必要です。明るさに関しては、20ルクス以下にならないことが要件です。

深夜営業を行う場合に必要な手続き

深夜営業の許可を得るまでには、下記の3つの流れがあります。

  • 届出の作成
  • 届出の提出
  • 変更があれば随時届出

それぞれの工程についての解説は、以下のとおりです。

必要書類を準備・作成する

深夜営業の届出は正式名称を「深夜における酒類提供飲食店営業 開始届出書」といい、下記の警視庁のホームページからダウンロードできます。記載例も掲載されているので、作成が難しい書類ではありません。

警視庁 深夜酒類提供飲食店営業(様式一覧)の詳細を見る

それ以外の必要書類は下記のとおりですが、なかには正確に面積を測ったり、ツールを活用することが推奨されたりするなど、届出書より作成難易度が高いものもあります。

  • 平面図
  • 求積図
  • 客室・その他求積図
  • 照明・音響設備図
  • 飲食店営業許可書
  • 住民票
  • 法人の場合は、会社の基本情報などが記載された定款、法人登記事項証明書、役員全員の住民票

平面図は店舗を真上から見て、図面に起こしたものです。内壁の中心から測量し、角度も正確に測る必要があります。測量の結果から図面を起こします。その際、手書きも可能ですが、CADで平面図を作成した方が許可は下りやすいです。これまでに解説したように、最終的な判断は所轄の警察署に委ねられています。

求積図を作成する際には、計算しやすいように店舗を分割して面積を求めますが、CADを活用すると分割した図形の一辺の長さを簡単に測れます。店舗全体と客室、厨房、その他の求積図が必要です。照明・音響設備図は照明と音響設備の配置を図面に起こし、名称やワット数、個数を記載します。

深夜営業の許可には上記7つの書類が必要ですが、所轄の警察署によっては増える場合があります。

申請が大変だと感じる方は、行政書士などの専門家に依頼することも選択肢としてあります。

営業開始の10日前までに警察署へ届出を行う

必要な書類が揃ったら、所轄の警察署に提出します。届出が受理されて10日後から深夜営業を開始できますが、営業開始日を事前に決めている場合は余裕をもって行動しましょう。なぜなら、担当者が求める基準に満たなければ再提出が必要になり、受理されるまでに日数がかかる場合があるからです。警察署に深夜営業許可の担当者が不在なケースもあるので、アポイントを取っておきましょう。

無事受理されれば10日後から深夜営業が可能になるため、オープン日や深夜営業開始日に向けてPRをします。広告媒体やSNS、ポスティング、ビラ配りなど、さまざまな宣伝・広告活動の手段がありますが、効率的に周知できるのが「食べログ店舗会員登録」です。店舗情報を簡単に発信 できるほか、開店やリニューアルイベントのPR、クーポンの発行、アクセス解析などの機能を無料で利用できます。



届出内容に変更があった場合は随時届出をする

下記の変更があった場合には、随時届出が必要です。

  • 届出者の氏名、又は住所変更
  • 法人の名称、住所、代表者の氏名変更
  • 営業所の名称変更
  • 営業所の構造、又は設備概要の変更

変更の届出も警視庁のホームページからダウンロードできます。法人の名称や住所、代表者の氏名は、変更後20日以内、それ以外は10日以内に変更届を提出しなければ、罰金を科せられます。届出者が変更したり、個人から法人に変わったりする場合には一度廃業届を提出し、再度届出書を提出しなければいけません。営業を廃止した際の届出提出期限は10日以内です。

警視庁 変更届出書(様式一覧)の詳細を見る

違反すると罰則も! 深夜営業における注意点

深夜営業に関する「届出」と「営業・サービス」に対して罰則が定められています。違反した内容によって、科される罰則の種類や重さに違いがあるため注意しましょう。

届出をせずに深夜営業を開始してはならない

許可を得ず深夜営業を始めたり、虚偽の書類を提出したりした場合には50万円以下の罰金と、6ヶ月を超えない範囲内で営業の全部、又は一部に停止処分を命じられるおそれがあります。また、届出の内容に変更があったにもかかわらず変更届出書を期限内に提出しなかった場合にも、30万円以下の罰金が科せられます。

接待行為・客に遊興させる行為・客引きをしてはならない

店内で禁止され、違反すると罰則を科せられるのが「接客行為」と「遊興させる行為」です。接客行為は、「従業員が客の隣に座り定期的に談笑・お酌をする」行為とされていましたが、基準が改正されカウンター越しでも接客行為とみなされる可能性もあります。接客行為を提供する際には、風俗営業許可が必要です。

遊興は歌ったり、ゲームをしたりすることを指し、特定遊興飲食店営業許可が必要になります。どちらも違反した場合には、「懲役2年以下若しくは200万円以下の罰金又はこれを併科」の罰則を科せられます。

店外では客引きや通路に立ちふさがる行為、又は付きまとう行為などが禁止されており、違反すると「懲役6ヶ月以下若しくは100万円以下の罰金又はこれを併科」が科せられるので注意しましょう。

夜10時以降は18歳未満の者に接客をさせてはならない

18歳未満の者は夜10時以降の接客はもちろん、店内に立ち入らせることも禁止されています。違反した場合は「1年以下の懲役若しくは100万円以下の罰金又はこれを併科」の罰則を科せられます。

騒音に関する規制を守らなくてはならない

環境省が深夜営業における騒音の規制を定めており、違反すると勧告と命令が行われ、それでも改善がみられない場合は罰則が科せられるおそれがあります。深夜営業許可を得ていても、夜11時から午前6時の間はカラオケ装置や音響再生装置、楽器、有線ラジオ放送受信装置などの音響機器を使用してはいけません。知事が規制の詳細とその対象を定めているため、地域によって異なります。

ただし、音響機器が発する音が外部に漏れないように、防音対策を施している店舗は規制の対象外です。

深夜営業が集客に効果的かどうか判断するには

深夜営業に適性があるかを判断する際には、店舗のコンセプトとターゲット層を確認しましょう。ターゲットに深夜でも時間を確保できる客層が含まれているなら、深夜営業に適性があるでしょう。主婦層やファミリー層をターゲットにしている店舗は深夜営業が利益につながらないどころか、既存の顧客を失うおそれもあるので注意しましょう。

また、立地条件や提供するメニューも重要な判断材料です。深夜は公共交通機関が運行していないので、帰りの交通手段にタクシーが利用される可能性が高くなります。最寄りの住宅地まで距離がある場合はタクシーを利用しづらく、深夜に来店する頻度が低くなります。同様にメニューによっても深夜に利用されやすいか否かが異なるので、立地やメニューに配慮して営業時間を設定しましょう。

深夜営業に適性がある場合は、PRが重要です。無料で始められる「食べログ店舗会員登録」などの有用なツールを活用して、集客力の向上を図りましょう。


まとめ

飲食店が午前0時以降にアルコール類をメインに提供する場合は、深夜営業の許可を得る必要があります。違反した場合は罰金や営業停止処分になるので、必ず所轄の警察署に届出を提出し、内容に変更があれば変更届も期限内に提出しましょう。ただし、所轄の警察署によって審査の基準に差があるので注意が必要です。

営業時間は飲食店経営にとって重要な要素であり、深夜営業に適性があるかを判断する際には店舗のコンセプトとターゲット層が基準になります。 スムーズに深夜営業を開始するためには、届出内容や違反について事前に把握しておき、余裕をもった準備を行いましょう。

参考文献

風営法で居酒屋の客引きは禁止されている!?|アカツキ法律事務所|アカツキ法律事務所
深夜営業許可について解説|岩瀬勇祐行政書士事務所|岩瀬勇祐行政書士事務所
風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律|e-Gov 法令検索|デジタル庁
特定遊興飲食店営業を無許可でやると…|風営法違反で逮捕??|富岡行政法務事務所|富岡行政法務事務所
これはNG!風営法違反|5分でわかる風営法の罰則と、対処の方法|富岡行政法務事務所|富岡行政法務事務所
深夜労働が許される年齢は?労働基準法に関わる注意点|Jinjer Blog|Jinjer株式会社
深夜営業許可とは|独立コンサルAJ行政書士事務所|独立コンサルAJ行政書士事務所
変更届について|独立コンサルAJ行政書士事務所|独立コンサルAJ行政書士事務所
図面(平面図・求積図・照明音響設備図)の書き方|独立コンサルAJ行政書士事務所|独立コンサルAJ行政書士事務所
深夜営業でやってはならない行為|独立コンサルAJ行政書士事務所|独立コンサルAJ行政書士事務所
接待行為とは/風営法規定の接待行為とは|独立コンサルAJ行政書士事務所|独立コンサルAJ行政書士事務所
適法に深夜営業をするため順守するべき大事な7つの要件|独立コンサルAJ行政書士事務所|独立コンサルAJ行政書士事務所
風俗営業許可申請|行政書士いわさか事務所|行政書士いわさか事務所
飲食店の集客に効果的な営業時間の決め方!|開店ポータルBiz|レジチョイス株式会社
工業専用地域とは【用途地域の制限と実例】|家づくりを応援する情報サイト|株式会社ポラリス・ハウジングサービス
住居地域と住居専用地域はどう違うの?|三井住友トラスト不動産|三井住友トラスト・ホールディングス
18歳の高校生を風営法のお店で働かせてもいいの?|ナイトビジネス専門 行政書士法人 ARUTO|ナイトビジネス専門 行政書士法人 ARUTO
どこからが接待行為なの?深夜酒類飲食店が注意しておきたい風営法について|ナイトビジネス専門 行政書士法人 ARUTO|ナイトビジネス専門 行政書士法人 ARUTO
風営法申請前の保全対象施設との距離規制について|ナイトビジネス専門 行政書士法人 ARUTO|ナイトビジネス専門 行政書士法人 ARUTO
「深夜酒類提供飲食店開始届出」のポイントや注意事項、手続きの流れ、必要書類について|ナイトビジネス専門 行政書士法人 ARUTO|ナイトビジネス専門 行政書士法人 ARUTO
風営法違反の罰則 ~風営法違反に問われないためのポイントを徹底解説~|ナイトビジネス専門 行政書士法人 ARUTO|ナイトビジネス専門 行政書士法人 ARUTO
深夜営業するときの届け出と注意すべきこと|株式会社デレクト|株式会社デレクト
深夜営業騒音等の規制について|環境省|環境省
飲食店が「深夜営業」をする際、許可や届出は必要? 営業の条件や手続きを解説|飲食店ドットコム|株式会社シンクロ・フード
深夜営業するときの届け出と注意すべきこと|大阪市の不動産のことなら株式会社ジェイズ|株式会社ジェイズ
深夜の営業等の制限|東京都環境局|東京都環境局
深夜酒類提供飲食店営業(様式一覧)|警視庁|警視庁
飲食店営業の決まり事|横手警察署生活安全課|横手警察署生活安全課
「遊興をさせる」とは|大阪府警察|大阪府警察
深夜営業騒音の防止に御協力を! |愛知県|愛知県
夜間に飲食店等を営業する皆さまへ |茨城県県民生活環境部環境対策課|茨城県県民生活環境部環境対策課
飲食店の深夜営業の手続きと注意点|119番資金調達ネット|Ichigo(一期)行政書士事務所
深夜営業許可が必要な飲食店の条件は2つ!申請方法やルールをここで確認|内装ハック|デザインディレクターズ株式会社

監修者:原島 純一

プロフィール

株式会社STAYDREAMの代表。株式会社すかいらーくにて店舗マネジメント、従業員教育などを担当。また、フロアーの新フォーメーションの構築や、新メニュー開発などを経験。2006年にビジネスコーチ、コンサルタントして独立。2008年中小企業診断士の資格を取得。現在は、全国の飲食店の新規開業から、既存店の立て直しなどの支援を実施している。また、「わかりやすい言葉で伝え、明日から実践できる」をテーマに、全国でセミナー講師活動も実施中。

サイトURL

https://c-staydream.com/

前の記事へ

飲食店におけるMEO(ローカルSEO)の重要性は? 対策のポイントを解説

次の記事へ

HACCP(ハサップ)とは? 義務化で何が変わった? 簡単に解説

関連記事

  • 飲食店成功の秘訣は“コンセプト”?開業時の決め方と参考事例

    飲食店成功の秘訣は“コンセプト”?開業時の決め方と参考事例

    開業
  • 飲食店の開業に必要な準備は?資金計画や資格、注意点を解説

    飲食店の開業に必要な準備は?資金計画や資格、注意点を解説

    開業
  • 急増中のミクストランとは? 飲食店×異業種の新たなカタチ

    急増中のミクストランとは? 飲食店×異業種の新たなカタチ

    開業