HACCP(ハサップ)とは? 義務化で何が変わった? 簡単に解説

2021年6月から食品に関わるすべての事業者に義務付けられた「HACCP(ハサップ)」は、食の安全性確保はもちろん、飲食店の経営を守る上でも有用な衛生管理手法です。この記事では飲食店の経営者や経営陣に向け、HACCPの概要や従来の食品衛生法との違い、メリット、手順についてわかりやすく解説します。

目次

HACCPとは?

HACCP(ハサップ)は、「Hazard(危害)」「Analysis(分析)」「Critical(重要)」「Control(管理)」「Point(点)」の頭文字を用いた略語です。日本語に訳すと「危害要因分析重要管理点」となり、食品を安全に提供するための衛生管理手法です。 人類初の有人月面着陸を果たしたアポロ計画の中で、「宇宙食をどのように安全に管理するか」という課題に取り組むために考案されました。 その後、世界保健機関(WHO)と国連食糧農業機関(FAO)からなる、食の国際基準を定める「コーデックス委員会」に評価されたことが契機となり世界的に普及し、国際的な食品衛生管理の基準として位置づけられています。 HACCPは「HA(危害要因分析)」と「CCP(重要管理点)」の2つから構成されており、それぞれの詳細について説明します。

HA(危害要因分析)

HA(危害要因分析)とは、「Hazard Analysis」の略語です。危害要因には、以下の3つが挙げられます。

  • 生物的要因=食中毒の原因となる細菌や微生物など
  • 化学的要因=食品添加物や栽培の際に用いられた農薬などの化学物質
  • 物理的要因=髪や金属片などの製造過程において混入する異物

これらの要因を消費者に与える影響の度合いや発生する頻度などの観点から分析し、健康に悪影響を与える要因に対して排除、または低減する管理手法を確立するのが危害要因分析です。 具体的には、危害要因の「選定」「分類」「管理措置の決定」を実施します。危害要因の選定では原材料が持ち得る危害要因や過去の事例、周知の情報などから合理的に起こり得ると予想される危害をリストアップします。実際に起こった食中毒や異物混入事故などが過去の事例です。幸い大きな被害は発生しなかったものの非常に危険だった業界内の「ヒヤリハット事例」もリストに含まれます。 作成したリストを「生物的要因」「化学的要因」「物理的要因」に分類し食品衛生上、問題のないレベルまで排除、または削減するための管理措置を決定します。原材料を仕入れる際の基準の制定や殺菌のための加熱、異物を除去するための対策などが措置の例です。

CCP(重要管理点)

「Critical Control Point」の頭文字を取ったCCP(重要管理点)は、特定の危害要因を排除、または低減するための工程を指します。危害要因を排除・低減できる最後の砦となる工程であり重要です。「HA」でリストアップした危害要因に対して、科学的根拠に基づいて管理基準や許容限界を定め、記録と監視を実施して継続的な製品の安全性確保を目指します。

許容限界は「CL(Critical Limit)」とも表記され、製品の安全性を確保するためのボーダーラインとしての役割を担います。例えば食肉を含む食品であれば、腸管出血性大腸菌O-157などが原因となる食中毒を防ぐための「中心温度75℃で1分以上の加熱」が、消費者に製品を安全に提供する上で設置される許容限界です。許容限界は温度や時間のほか、pHや水分含有量、水分活性、有効塩素濃度などがあります。また、質感や色の変化といった数値化できない条件も含まれます。

世界のHACCPに関する状況

海外のHACCP導入状況は、日本より先行しています。カナダやオーストラリアが、一部の製品に対してHACCP義務化を実施したのは1992年です。アメリカは1997年、台湾では2003年、韓国では2012年に一部の品目にHACCPを義務化しました。EUの加盟国では2006年に、一次産業を除くすべての食品を取り扱う事業者にHACCPの概念を取り入れた衛生管理の義務化を実施しています。

それに対して、日本がHACCPの完全義務化を果たしたのは2021年6月1日です。 日本ではHACCPの義務化以前から、食品衛生法を基準に衛生管理が実施されていました。しかし、前回の食品衛生法の改正から約15年が経ち、食品を取り巻く環境が変化したことや、国内の大規模な食中毒の発生率が下げ止まりになったことが背景となり、より安全性の向上が図れるHACCPを取り入れた法改正が実施されました。これには、2021年開催の東京オリンピック・パラリンピックを控え、国際的な基準を満たす必要性があったことも関係しています。

HACCPと従来の検査の違い

改正前の食品衛生法における衛生管理では、加工などに使用する機器の消毒や手洗い、「抜き取り検査」に重点が置かれていました。抜き取り検査は、同じ状況で製造される製品の最小単位「ロット」からサンプルを抜き取り、そのサンプルが基準を満たしているかを調べる検査方法です。この検査方法は、下記の3点が課題として挙げられていました。

  • ロット全体が基準を満たしている保証はなく、見落としのおそれがある
  • サンプルが基準を満たしていない場合、該当するロットの製品はすべて廃棄となる
  • 問題が発生した場合、原因究明が困難

抜き取り検査では、完成した製品のロットからサンプルを抜き取って検査するため、サンプルに選ばれなかった製品の中に、危害要因を持つ製品が含まれるおそれがあります。そのまま消費者に提供されれば食品事故に発展しかねません。 サンプルが基準を満たさなかった場合には、基準を満たした製品があってもロットごと廃棄しなければならないため、多大なロスが発生してしまいます。また、検査は完成品で行われるため、製造過程のどこで問題が発生したのかを特定しにくく、原因究明が困難であることも課題として挙げられました。 それに対してHACCPは危害要因をリストアップして分析し、危害要因を排除・低減するため各製造過程に管理基準や許容限界を設定します。製造過程ごとに監視と記録を継続するので、製造途中であっても問題が発生すれば迅速に対応でき、原因の究明も容易です。抜き取り検査に比べてロスを抑えつつ初期対応や原因究明も素早く実施できるので、効率的かつ食品や製品の安全性向上を図れます。

HACCPの義務化で何が変わった?わかりやすく解説

日本では1998年に「食品の製造過程の管理の高度化に関する臨時措置法(通称:HACCP支援法)」が施行され、2021年6月1日から原則として、食品を取り扱うすべての事業者に対してHACCPに準ずる食品衛生の義務化が施行されました。アメリカやEU諸国、日本周辺の国でも韓国や台湾が先駆けてHACCPの導入に取り組んでおり、国際基準として普及したHACCPを以前からある食品衛生法に取り入れた形です。 改正により、以下の事業者はHACCP義務化は実施されていませんが、一般的な衛生管理が必要となりました。

  • 食品や添加物の輸入業
  • 食品や添加物を貯蔵、または運搬を担う業者
  • 常温でも腐敗などの食品衛生上の危害が発生するおそれがない梱包食品の販売業
  • 食品用の器具・容器包装の販売業

大規模、または広域的な食中毒への対策強化や衛生規制の整備など、食品や製品の安全性向上が従来の食品衛生法との違いとして挙げられますが、より異なる点として挙げられるのが中小企業にまで対象が及んだことです。大規模事業者などは「HACCPに沿った衛生管理」、小規模事業者は「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」が義務化されたことにより、下げ止まり傾向が続いていた食中毒の発生率低下が期待されています。 2022年に農林水産省が公開した資料によると、2021(令和3)年10月1日時点でのHACCPに沿った衛生管理の導入状況割合 は、販売規模が50億円以上の食品製造事業者は100%です。しかし、5,000万円未満の事業者になると約50%まで下がり、販売規模が小さいほどHACCPの導入が進んでいない傾向にあります。 HACCP義務化の「対象者」「怠った際の罰則」「認証機関」「必要な対応」について、次項で解説します。

厚生労働省/HACCP(ハサップ)

農林水産省/令和3年度食品製造業におけるHACCPに沿った衛生管理の導入状況実態調査結果

対象者

食品の製造や加工、調理、販売に携わるすべての事業者が義務化の対象となりました。事業者の規模によって衛生管理の基準が異なります。法人全体の従業員数が50人以上の場合は「HACCPに基づく衛生管理」が義務付けられ、従業員数50人未満の事業者には「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」が義務付けられました。前者はコーデックス委員会が定めるHACCP7原則が衛生管理の基準で、後者は各業界が作成する手引書を基に簡略された衛生管理方法が基準となります。 事業者の規模を判断する基準となる従業員数としてカウントするのは、食品の取り扱いに直接従事する者だけです。事務職や営業職など、食品の取り扱いに直接従事しない従業員はカウントされません。

義務を怠った際の罰則

HACCPの義務を怠った場合の罰則は、食品衛生法には記載されていません。その代わり、罰則などの規定は各都道府県知事に委ねる旨が明記されています。つまり、義務化を怠ったり、無視したりした際には自治体が設けた罰則が適用されます。 都道府県条例や地方自治法では懲役刑2年、または上限100万円までの罰則が設けられるため、それに準ずる罰則が科される可能性もあるでしょう。また、保健所からも衛生管理に関して指導が入ることが予想されるので、営業許可を更新できなくなるおそれがあります。

認証機関

HACCP認証機関は、主に以下のとおりに分類されます。

  • 地方自治体
  • 業界団体
  • 民間の審査機関

それぞれの機関が食品衛生法やHACCP7原則を基に独自の基準を設定しているため、審査の難易度や信頼性に差が生じます。 HACCP認証の取得自体は必須ではありませんが、認証を取得することで消費者や取引先企業に対して企業イメージアップの効果が期待できます。 認証を維持するには定期的な審査があり、審査費用や登録費用などのランニングコストがかかるため、費用対効果の見極めが重要です。 また、認証機関ごとに基準や信頼性が異なるので、取得する際には起用している認証規格を確認しましょう。国際基準化機構(ISO)が策定する「ISO22000」は、世界的に認知されています。HACCPを基に、食品の品質に関する要求が組み込まれているため「ISO9001(品質マネジメントシステム)とHACCPを融合させた規格」とも呼ばれます。衛生管理や品質についてより厳しい基準が設けられた規格「FSSC22000」もありますが、難易度が高くなっているので取得を検討する際には注意が必要です。

義務化で対応が必要になることとは

HACCP義務化の対象となる食品事業者は、「管理の計画」「管理状況の記録」「改善」の3つが必要です。手順や詳細については、後述します。 製品や事業規模によって管理基準は異なります、厚生労働省が手引を公開しているので下記の参照元をご確認の上、ご自身の事業にあった衛生管理の方法を取り入れましょう。

厚生労働省/HACCPの考え方を取り入れた衛生管理のための手引書

HACCPに沿った衛生管理の実施は企業イメージの向上を図る上でも有効です。しかし、周知できなければ効果は期待できません。HACCP基準の衛生管理に取り組む飲食店が、消費者にアピールする有用な手段として挙げられるのが食べログです。食の安全性確保に対する真摯な姿勢をPRするために、無料で始められる食べログへの登録 を検討してみてはいかがでしょうか。


HACCPの具体例:7原則12手順(飲食店が実施すること)

HACCPに沿った衛生管理を実施する際には、12の手順で進めます。1〜5までの手順は下準備、6〜12の手順が「HACCP7原則」に該当します。

  1. HACCPチームの結成
  2. 製品説明書の作成
  3. 提供する対象と提供する用途の確認
  4. 製造工程図の作成
  5. 製造工程図の現場での確認
  6. 【原則1】危害要因の分析
  7. 【原則2】CCP(重要管理点)の決定
  8. 【原則3】CL(管理基準)の設定
  9. 【原則4】モニタリング方法の設定
  10. 【原則5】改善措置の設定
  11. 【原則6】検証手順の設定
  12. 【原則7】記録保管の設定

それぞれの手順の詳細や飲食店における具体例は、次項のとおりです。

【1】HACCPチームの結成

まずはHACCPチームを結成しますが、3つのポイントを押さえることが重要です。

  • 一人、または少人数に任せない
  • 各業務に精通したメンバーを選出する
  • 外部の専門家も選択肢に入れる

HACCPは業務や部署を横断して取り組みます。そのため、一人、または少人数では全体の衛生状況を管理・継続することは困難です。大人数は必要ありませんが、各業務や部署からバランス良く選出しましょう。 また、チーム編成には、業務に精通したメンバーが適しています。手順6の危害要因の分析には、携わる業務の深い知見が必要です。歴の長いパートやアルバイトの従業員は、長い職歴の中でトラブルや問題に関わった可能性があり、危害要因分析に有用な情報が得られます。雇用形態に関わらず、業務に精通したメンバーを選出しましょう。 小規模店やオープンして間もない店舗は、特定の業務に精通したメンバーや蓄積した情報が少ないため、外部の専門家の起用も選択肢に入れます。HACCPのコンサルタント業務を担う企業もあるので、専門性を確認した上で起用を検討しましょう。

【2】製品説明書の作成

製品に関する下記の内容などを記載した説明書を作成します。

  • 製品の名称
  • 製品の種類
  • 原材料名
  • 添加物名
  • 包装の形態や材質
  • アレルゲン
  • 保存方法
  • 賞味期限

等、多岐にわたります。できる限り詳細な情報を製品説明書に記載し、消費者が求める情報が網羅されていることが重要です。アレルゲンや添加物などは食べる人によっては、命に関わるような食品事故につながるおそれがあります。食の安全性を確保する上で、大切な手順です。特にテイクアウト事業に取り組む飲食店は、提供した商品が安全に消費されるようHACCPチームで取り組みましょう。

【3】提供する対象と提供する用途の確認

製品はどのような消費者に提供されるのか、提供された製品はどのように消費されるのかを確認します。大人と幼児では、提供される製品によっては異なる危害要因が発生する可能性もあるため確認は重要です。病気や疾患などのリスクを抱えている人が消費する可能性も含めて、食の安全が脅かされるおそれがないかを洗い出しましょう。

また、製品を食べる時には加熱が必要なのか、そのままでよいのかなどの用途確認は、危害要因分析の際に役立ちます。加熱しなければならない製品をそのまま食べると食中毒を起こす確率が高くなり、高齢者や幼児などの免疫能力が低いとされる人はより深刻な事態に陥るおそれがあります。

【4】製造工程図の作成

原材料や包装容器などを受け入れてから消費者に提供されるまでの製造工程を書き出します。飲食店であれば、食材を仕入れてから保管する環境の状態や調理されるまでの期間、調理時の温度や時間など、製造工程ごとに詳細を記載します。 「フローダイアグラム」とも呼ばれる製造工程図は、製造工程を時系列順に並べ、各工程の相互関係をわかりやすく可視化した設計図です。調理工程や消費者に提供されるまでの流れが、業務に携わらない従業員でも理解できる工夫が必要です。手順6の危害要因分析の際に重要になるので正確、かつ見落としがないように作成しましょう。

【5】製造工程図の現場での確認

手順4で作成した製造工程図を、現場の業務と照らし合わせます。HACCPチームが作成した工程図と現場の作業に違いがないかを確認し、必要に応じて修正しましょう。

また、飲食店によっては時間帯や曜日で従業員が異なる場合もあります。従業員独自のやり方やルールで作業を進めていないかを確認するためにも、1回ではなく複数回現場をチェックしましょう。

【6】危害要因の分析

作成した製品説明書や製造工程図、一般的に周知されている情報、業界内で周知されている情報から危害要因をリストアップします。原材料の受け取りから保管、製造工程中の加熱や冷却において発生する危害要因への対策や管理方法を定めます。 例えば製造工程中に食中毒が発生するリスクがある場合、サルモネラ菌や腸管出血性大腸菌O-157など、具体的な菌名を表記することがポイントです。なぜなら、菌によって殺菌に用いる手段や、死滅条件が異なるからです。菌名を表記することで、より危害要因の排除・低減に効果的な対策を講じやすくなります。

【7】CCP(重要管理点)の決定

リストアップした危害要因を排除、または許容範囲内まで低減するための工程を洗い出します。例えば、異物混入を防ぐための金属探知機や食中毒菌を排除・低減するための加熱処理、加熱後の食中毒菌増殖を抑制する急速冷却などの工程です。各危害要因を抑えるために効果的な工程を選出します。 飲食店では調理以外にも、料理を提供するテーブルやイス、トイレなどで危害要因が発生するおそれがあります。厨房だけではなく店舗全体に、テイクアウトに対応している飲食店なら消費者が持ち帰った後も危害要因が発生する可能性があるので、見落としがないように注意が必要です。

【8】CL(管理基準)の設定

手順7で選出した工程で、危害要因を排除、低減できるCLを設定します。管理の基準として設ける項目は温度や時間、速度、圧力、pHなどです。数値化できるこれらの項目に加え、色や形状などの数値化が難しい項目もCLに含まれます。 手順8の重要ポイントは2つあり、ひとつは科学的根拠に基づいたCLの設定です。 食中毒の原因となるサルモネラ菌は、食材に存在していても中心温度75℃以上1分間の加熱で死滅するという科学的根拠があります。ただし、中心温度が基準を満たしているかどうかを確認し続けるのは容易ではないため、このような場合は、中心温度が75℃以上を保てる条件を満たす製造方法をCLとして設定するのがよいでしょう。 もうひとつのポイントは、できる限りリアルタイムで判断できるCLを設定することです。上記の温度や時間、色などはその場での計測が容易です。検体を提出して専門機関に食中毒菌の数値を調べてもらうような管理基準では時間がかかるため、調理してすぐに提供する飲食店には適しません。

【9】モニタリング方法の設定

手順8で設定したCL通りに工程が進められているかを確認します。モニタリング方法を設定しますが、現場で作業に当たる従業員の負担も考慮しなければいけません。機器による検測や目視確認などモニタリング方法を決めますが、調理するすべての食材をモニタリングすると従業員の負担が大きくなります。

例えばオーブンでは、熱は上部に溜まり下部の温度は低くなりやすいです。一番下の段の食材が「中心温度75℃以上1分間」のCLを満たしているなら上部の食材もCLを満たしているものとするなど、現場の負担にも配慮し継続可能なモニタリング方法を設定しましょう。

【10】改善措置の設定

モニタリングでCLを満たさない製品が発見された場合の改善措置を決めます。「中心温度75℃以上1分間」の加熱が管理基準の食材が、モニタリングでは中心温度が70℃だった場合、同等の効果が科学的に証明されている70℃以上を3分間維持する手直しが改善措置として挙げられます。手直しが難しいケースでは製品の廃棄を措置として考えなければいけません。 また、原因分析や責任者への報告方法、モニタリングの記録方法なども設定し、HACCPの改善や継続につながる仕組みを構築します。

【11】検証手順の設定

手順10までの取り組みが現場で機能しているかを検証する方法を設けます。チームが作成したHACCPが現場で実施されているかを検証する方法や担当者、検証頻度を設定しましょう。検証に併せて、温度や時間を計測する機器の定期的な点検も必要です。

【12】記録保管の設定

実施したHACCPの記録や保管方法を設定します。記録を取り、保管することで問題が発生した場合に原因究明や状況把握に役立ち、対策を講じやすくなります。衛生管理は1回だけではなく、継続することが重要です。記録を基にPDCAサイクルを回し、より安全性が確保された製品を提供できるようにしましょう。

HACCPのメリット

HACCPのメリットについてそれぞれ解説します。

食品の安全性を保てる

食品の製造過程ごとに管理基準を満たしているかを監視・記録するため、食品事故を未然に防げます。従来の抜き取り検査では、見落としがあったり、検査結果が出るまでに時間がかかったりするため、食品事故を防ぐ施策としては欠陥がありました。 食中毒は人命に関わる食品事故であることはもちろん、飲食店は経営的に大きなダメージを受ける事案であり、廃業や倒産に陥るおそれがあります。食の安全と飲食店の経営、両方を守れるメリットがあります。

作業効率が向上する

HACCPに沿って製造過程を管理してリスクやトラブルを予防しているので、業務や原材料のロスを抑えられ作業効率が向上することがメリットです。 また、製造工程図を作成しているので業務の流れや関係性が可視化され、改善点を見つけやすくなります。新人教育の際の教材としても有用なため、さまざまな業務で効率化が図れます。

従業員が衛生面に意識を持てる

HACCPでは科学的根拠に基づいた管理基準やモニタリング方法、記録・保管方法を設けてルール化しているため、従業員に衛生観念を浸透させやすい点がメリットです。衛生管理の方法を従業員全体で共有するため、個人によって差が生じることを抑えられ、平均的に食の安全性を保てるメリットもあります。

トラブルを未然に防げる

製造工程ごとに管理を実施するため、品質のばらつきを抑えられ顧客満足度の向上につながります。完成品の抜き取り検査では見落としの可能性もあり、基準を満たさない製品が消費者に提供されれば、企業に対して不信感を抱かれるおそれがあります。HACCPの導入により、食品事故をはじめとするトラブルやリスクを抑えられることがメリットです。

2021年6月に完全義務化となったHACCP。 HACCP導入には多くの時間と手間がかかりますが、それ以上に多くのメリットがあり、企業の衛生管理レベルの向上が見込まれるほか、作業の効率化や従業員に対する教育方針を見直すきっかけにつながります。 食品事故を完全にゼロにすることはできませんが、HACCPの導入により衛生管理の意識を高め、食品事故ゼロを目指すことはとても重要なことです。 この記事を読んで、食品衛生管理の更なるレベル向上に役立ててみてください。

まとめ

HACCPは国際基準を満たした食品の衛生管理を実施する上で有用な手法です。従来の食品衛生法で挙げられていた課題の解決も期待され、飲食店にとっても業務効率化やトラブルの予防などのメリットがあります。

2021年6月1日からHACCPに準ずる衛生管理は完全義務化され、義務を怠った場合には自治体が定めた罰則が科されるおそれもあります。食の安全を守るために、そして経営する飲食店を守るためにもHACCPに沿った衛生管理に取り組みましょう。

参考文献

「ロット」の意味は? 今さら聞けない、生産管理に必要な単位の知識|工場タイムズ|株式会社コンフィデンス・インターワークス
HACCP認証機関には種類がある|ISO取得 運用サイト【ISOプロ】|NSSホールディングス株式会社
HACCP(ハサップ)とは?義務化や対象企業について簡単解説|ISO取得 運用サイト【ISOプロ】|NSSホールディングス株式会社
HACCP(ハサップ)とは?概要をわかりやすく解説|Teach me Bizブログ|株式会社スタディスト
HACCPのメリットデメリットとは?デメリットを減らす方法も解説|KAMINASHI|株式会社カミナシ
HACCPのチーム編成は1人きりに任せないで!製品説明書の作成手順もチェック【HACCP導入手順1~3】|衛生管理とHACCPにまつわるコンテンツサイト|株式会社エッセンシャルワークス
HACCPの製造工程図を作成しよう!現場チェックはなぜ必要か解説【HACCP導入手順4・5】|衛生管理とHACCPにまつわるコンテンツサイト|株式会社エッセンシャルワークス
HACCPの危害要因分析とは?3ステップでリスト作成し事故の危険を回避しよう【HACCP導入手順6原則1】|衛生管理とHACCPにまつわるコンテンツサイト|株式会社エッセンシャルワークス
重要管理点(CCP)の設定方法とは?ポイントや注意点を解説【手順7原則2】|衛生管理とHACCPにまつわるコンテンツサイト|株式会社エッセンシャルワークス
HACCPの管理基準の設定とは?モニタリング方法や不適合品が出た時の対応もチェック【HACCP導入手順8~10】|衛生管理とHACCPにまつわるコンテンツサイト|株式会社エッセンシャルワークス
HACCP(ハサップ)導入のメリット・デメリット。事業者にどんな利点がある?|教えて! HACCP 先生|教えて!HACCP先生 運営事務局
HACCPの製品説明書について解説!必要項目や作成手順、具体的な書式は?|ISOナビ|株式会社インターネットプラス
HACCPの具体例について解説!各HACCP基準での運用はどうすればいい?|ISOナビ|株式会社インターネットプラス
HACCP(ハサップ)とは?具体的に何をするのかや対象となる事業者など重要点を簡単に解説!|カラーミーショップ|GMOペパボ株式会社
PDCAを上手に回すコツと4つの手順(PDCA実行シート付き)|社長の教科書 中小企業の「社長」のための経営情報|ビジョン税理士法人
HACCPにおける管理基準(許容限界/運用限界)の設定からモニタリング方法・改善措置の設定まで|ACALA|タイムマシーン株式会社
HACCP(ハサップ)とは?2020年6月に義務化された食品衛生管理手法について解説|Time&Air AMANO|アマノ株式会社
食肉の加熱条件に関するQ&A|厚生労働省ホームページより|厚生労働省
令和3年度食品製造業におけるHACCPに沿った衛生管理の導入状況実態調査結果|農林水産省|農林水産省
HACCP(ハサップ)に沿った衛生管理の制度化|厚生労働省
食品衛生法の改正について|厚生労働省
食品等事業者団体による衛生管理計画手引書策定のためのガイダンス(第3版)|厚生労働省
食品等事業者団体による衛生管理計画手引書策定のためのガイダンス(第4版)|厚生労働省
HACCPに沿った衛生管理の制度化について|厚生労働省
コーデックス委員会の概要|厚生労働省
HACCP(ハサップ)とは?義務化の対応や7原則を解説|NECソリューションイノベータ株式会社|NECソリューションイノベータ株式会社
原材料に由来する潜在的な危害要因
HACCPとは?意味・義務化・目的・対象企業や何をするのかなどの対策方法を解説 第1回 (全5回)|東芝情報システム株式会社|東芝情報システム株式会社

監修者:原島 純一

プロフィール

株式会社STAYDREAMの代表。株式会社すかいらーくにて店舗マネジメント、従業員教育などを担当。また、フロアーの新フォーメーションの構築や、新メニュー開発などを経験。2006年にビジネスコーチ、コンサルタントして独立。2008年中小企業診断士の資格を取得。現在は、全国の飲食店の新規開業から、既存店の立て直しなどの支援を実施している。また、「わかりやすい言葉で伝え、明日から実践できる」をテーマに、全国でセミナー講師活動も実施中。

サイトURL

https://c-staydream.com/

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