飲食店が守るべき法律は? うっかり違反しないために知っておきたい事
飲食店を経営するうえで、飲食の提供や雇用面に関する法律の知識を押さえておく必要があります。また、運営にあたって該当する資格の取得や許可の申請、届け出が必要です。本記事では、飲食店の開業時に守るべき法律と、必要な資格・届け出・許可について詳しく解説します。法律違反を避けるためにも、開業前に一度目を通してください。
目次
飲食店開業時に守るべき法律【飲食】
飲食店の開業時に守るべき法律を三つ解説します。安全な飲食を提供するにあたり、食品衛生法、食品リサイクル法、風営法について理解を深めておくと、開業後に起こり得るトラブルを防止できます。
食品衛生法
食品衛生法は、異物の混入による健康被害や安全性が確保できていない食品の提供など、飲食に起因する衛生上の危害を未然に防ぐことを目的とした法律です。飲食店を運営する際の規制・措置を定めており、飲食店で起こり得るトラブルを防止します。 安全に飲食を提供するためには食品衛生法の理解が欠かせません。
2020年6月には、より高い衛生基準を求めるHACCPが義務化(1年の猶予期間)され、2021年6月に完全義務化されました。HACCPはHazard Analysis and Critical Control Pointの略称であり、危害分析にもとづく衛生管理手法を指しています。飲食店の経営者は危害要因を把握し、全工程で危害要因を取り除く、あるいは低減させる管理が求められます。衛生管理計画・手順書の作成を行い労働者への周知を徹底し、かつ実施状況を記録して保存しなければなりません。また、定期的に効果を検証して内容を見直すことも、経営者の義務です。
参考:厚生労働省 HACCP
食品リサイクル法
食品リサイクル法(食品循環資源の再生利用等の促進に関する法律)は、食品の廃棄量を抑えて、かつ再利用を推進させるための法律です。消費者庁によると、日本では食品の廃棄量が523万トンにのぼり、そのうち、食品関連事業者から発生する事業系食品ロス量は279万トンです(2021年度推計値)。
食品ロスの抑制や減量が大きな課題となっているなかで、食べられる食品の廃棄を防ぎ、資源を肥料や堆肥にするなどして有効活用できれば、環境への負荷を軽減させることが可能です。
法律の対象となる食品廃棄物は、顧客の食べ残し以外にも、調理過程で出た食品のくずなども該当します。食用に供せないものは熱を得るために、燃料として電気エネルギーにします。最終的に再利用できない食品廃棄物に関しては脱水や乾燥を行い、廃棄量を減少させなければなりません。自店舗で再利用できない場合には、委託先や譲渡先でリサイクルを行うことも可能です。業務用生ごみ処理機を導入するなど、自社で食品リサイクル法に準じた取り組みを行っているファミレスチェーンもあります。
参考:消費者庁 食品ロスとは?なぜ食品ロスの削減が必要なの?
参考:環境省 食品リサイクル法
風営法
風営法(風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律)とは、接待飲食営業を行う店舗や性風俗関連特殊営業を行う店舗が守るべき法律のことです。風俗営業等の規制や業務の適正化について定められており、夜間に飲食提供する店舗は遵守しなければなりません。また18歳未満の子どもの健全な育成に障害を及ぼさないために、風営法にもとづいて自店舗の形態に合った申請・運営を行う必要があります。
風営法の接待飲食営業には、カフェやバーなども該当する場合があります。カフェやバーを設けて顧客を接待し、飲食や遊興の提供を行う場合には風営法の対象です。
また、照度が10ルクス以下、あるいは個室で分けた広さが5㎡以下の店舗を営業している場合も風営法の対象店舗とみなされます。店内に遊興施設を設置している場合や、深夜0時以降にアルコールの提供をしている場合も風営法の対象です。
飲食店開業時に守るべき法律【雇用】
飲食店開業時に守るべき雇用面の法律について四つ解説します。労働基準法、労災保険法、雇用保険法、パートタイム・有期雇用労働法の基礎知識を押さえておくと、労働者の雇用で起こり得るトラブルを未然に防げます。労働者を守るためにも、飲食店の経営者は雇用関係の法律も遵守しなければなりません。
労働基準法
労働基準法とは、すべての労働者を守るための法律です。労働力が不当に搾取されないように、正社員・契約社員・パート・アルバイトなどすべての労働者が受ける待遇について定めています。労働者の生活を保障するために、労働時間・休憩・休日・時間外労働・年次有給休暇・賃金・解雇の予告や手当などのルールが設けられています。
労働基準法は強行法規であるため、定めた基準に満たない労働条件は無効となります。不当に労働者の待遇を悪くするなど、労働基準法に違反すると罰則が科せられるので、労務管理をしっかりと行うことが大切です。近年では働き方改革が進んでおり、違反行為を防止するために労務管理ツールを使って効率的に管理する飲食店もあります。
なお、業務委託を受けるフリーランスや、指揮をする役員などは同法の労働者にあたらないため、労働基準法の適用対象外です。
労災保険法
労災保険法(労働者災害補償保険法)とは、労働者が労働や通勤が原因で怪我や病気になった場合に備えるための法律です。被災労働者への保険給付を行うとともに、社会復帰の後押しや遺族への支援を目的としています。1人でも労働者がいる店は必ず労災保険に加入しなければなりません。
被災労働者への保険給付は原則として保険料からまかなわれ、店が保険料を全額負担します。また、労働者が傷病した際の保険給付の請求は、店側が労働基準監督署長宛に行う必要があります。休業が4日未満のケースにおいては労災保険を使用できないため、店側が休業補償を行わなければなりません。
なお、労災保険の対象となるのは店側に指揮命令される労働者です。役員や個人事業主は対象となりません。
参考:厚生労働省 労災補償
雇用保険法
雇用保険法は労働者の生活や雇用を安定させるために、雇用保険について定めた法律です。労働者を雇い入れた飲食店は、雇用保険被保険者資格取得届の提出が必要です。店は雇用保険料の納付や、雇用保険法で定められた届け出をしなければなりません。雇用保険料は労働者と店で負担し、賃金総額と保険料率で保険料が決定します。
加入条件は、1週間の所定労働時間が20時間以上かつ、31日以上の継続雇用が見込まれる労働者です。パートタイムや労働者的性格が強い身分を有するもの(役員と工場長を兼務など)も、条件に該当する場合は加入させる必要があります。
原則として、経営者・役員・個人事業主は対象とならず、指揮命令を下される労働者が保険加入対象となります。
参考:厚生労働省 雇用保険制度
パートタイム・有期雇用労働法
パートタイム・有期雇用労働法(短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律)は、パートタイム労働者と有期雇用労働者の働く環境を守るための法律です。働き方改革に伴い制定されました。
同法は同一労働・同一賃金を目標としているため、通常の労働者との間で不合理と認められるような待遇の違いを設けてはいけません。職務内容・変更範囲(職務内容や配置)・その他の事情を考慮した際に、待遇の相違を設ける部分は無効とみなされます。
同法の対象となるのは、1週間あたりの所定労働時間が正社員と比較して短い労働者と、雇用期間が定められている労働者です。店は対象者を雇い入れた際に、対象者に昇給・退職手当・賞与の有無や、相談窓口を文書の交付などにより明示する必要があります。
参考:厚生労働省 パートタイム労働者、有期雇用労働者の雇用管理の改善のために
飲食店開業時に必要な資格
飲食店を開業する際には、食品衛生責任者、防火管理者の資格が必要です。
食品衛生責任者
飲食店の開業にあたり、施設や部門ごとに食品衛生責任者の設置が必要です。食品衛生責任者は、経営者の指示で衛生管理にあたるほか、食品衛生の管理方法や食品衛生に関する事項について注意を払わなければなりません。
この資格は、都道府県知事などが実施する「食品衛生責任者養成講習会」を受講して取得できます。ただし、食品衛生監視員や食品衛生管理者の資格要件を満たす人、栄養士などの衛生関係法規にもとづく資格を持つ人は受講が免除されます。講習会は3科目で計6時間です。ただし、都道府県によって制度の詳細が異なる場合があるため、詳しくは受講先に確認しましょう。
防火管理者
防火管理者とは、多数の人が利用する建物の消防計画を作成し、必要な防火管理業務を行う責任者として認められるための資格です。都道府県知事、消防本部や消防署がある市町村の消防長、日本防火・防災協会が実施している「防火管理講習」の受講により取得できます。
すべての防火対象物で選任できる甲種防火管理新規講習は、10時間(2日)の受講が必要です。比較的小規模な防火対象物に限定される乙種防火管理講習は、5時間(1日)で取得できます。飲食店の場合、店舗の収容人数が30名以上の場合は資格取得者の設置が必要となり、消防計画を消防署に提出しなければなりません。
飲食店開業時に必要な主な届け出・許可
飲食店の開業営業にあたり、飲食店営業許可と防火管理者選任届の二つが必要です。
飲食店営業許可
飲食店の開業時には、所管の保健所に営業許可を申請する必要があります。店舗ごとに1人の食品衛生責任者を配置し、施設基準に合致する施設をつくらなければなりません。出店予定の地域の保健所に前もって事前相談が必要です。施設の工事が着手する前に、設計図などを持参のうえ所管の保健所に相談しましょう。
申請書類は、施設工事完成予定日の10日~2週間前までを目安に提出しておきたいところです。飲食店営業許可書が交付されるまでは数日かかるので、開店日には注意が必要です。施設基準に適合しない場合は、再度検査を受けなければなりません。無許可で営業すると、2年以下の懲役もしくは200万円以下の罰金または併科となり、2年間は営業許可を取得できなくなるので気をつけましょう。
防火管理者選任届
収容人数が30人を超える飲食店は、防火管理者選任届を管轄の消防署に提出する必要があります。防火・防災管理者選任届出書と、資格を証する書面、消防計画の届け出が必要です。消防署に提出するその他の書類とまとめておくと、一度に提出できて何度も足を運ばずに済みます。
参考:東京消防庁 防火・防災管理者選任(解任)届出書 / 消防計画作成(変更)届出書
飲食店開業時のポイント
ここからは、実際に飲食店を開業する際に気をつけるべきポイントを取り上げます。集客方法の検討やコンセプトの明確化、チェックリストの作成を行うと、開業時に方向性がぶれる心配がなくなります。開業前に入念に準備しておき、労働者が判断に迷わない指針を定めておくことをおすすめします。
集客方法を考える
飲食店の開業準備が整い次第、集客方法を検討しましょう。積極的にアピールしなければ、顧客に自店舗を認知してもらうのは至難の業です。WEBサイトやSNSを運用したり、周辺の店舗や企業へ挨拶回りをしたりと、認知してもらえるきっかけを作ります。
また、近年ではWEB上で事前に情報収集するユーザーが多いので、自店の営業時間やメニューを確認できる環境を用意することが大切です。事前予約ができるシステムを導入すると、販売機会の損失を防げます。事前予約で来店動機づくりもできるため、集客力を発揮します。
食べログ店舗会員になると、グルメサイト「食べログ」上に自店の情報を掲載できます。営業時間やコースなどの編集が可能で、ネット予約の受付も可能です。
コンセプトをしっかり作る
飲食店の開業時には、コンセプト作りが必要です。コンセプトをしっかりと決めておくと、店が顧客に提供できる価値や、店の方向性を明確にできます。ターゲット層をはっきりとさせられるため、経営者だけでなく、店で働く人の指針にもなります。また、コンセプトが決まるとレイアウトやインテリアを考えやすくなり、店舗に統一感を持たせることが可能です。
やるべきことチェックリストを作る
飲食店の開業手続きは煩雑で、かつ準備するべき備品や設備などが多数あります。開業に向けて動き出す前に、必要な項目をリストアップすることをおすすめします。チェックリスト形式で抜け漏れがないようにしておくと、開業後に慌てる心配がありません。
最低でもチェックしておくべきポイントは、届け出・手続き・備品・設備・オペレーション・販促・集客などについてです。特に届け出や手続きは漏れがないように、何度も確認しておくと安心できます。必要な申請や許可を得ずに開業してしまうと、罰則が科される可能性があるので注意してください。
まとめ
飲食店の開業にあたっては、飲食の提供や雇用関連で守るべき法律がいくつも存在します。健全な経営につなげるためにも遵守すべき法律は押さえておきましょう。
また、開業時に取得が必要な資格や、届け出・許可を忘れると罰則を科されるおそれがあるため注意してください。開業前後は煩雑な手続きで抜け漏れが起こる可能性があるので、チェックリストの作成がおすすめです。コンセプト作りや集客方法の検討まで事前に済ませておくと、開業後に慌てずに済みます。
参考URL
飲食店事業者が知っておきたい法律|食品衛生法、労働基準法、改正健康増進法などを解説|口コミアカデミー
HACCP(ハサップ)|厚生労働省
食品衛生法|法令検索
食品ロス削減に向けた消費者教育|学ぼう・考えよう・行動しよう|消費者庁
食品ロスの現状と取組|環境省
食品循環資源の再生利用等の促進に関する法律|e-Gov法令検索
【保存版】食品衛生責任者の取り方まとめ|CABA2 WORK
労働基準法|e-Gov法令検索
労働基準法に関するQ&A|厚生労働省
【労働基準法とは?】初心者にも分かるように簡単に解説!|契約ウォッチ
労働基準法について|厚生労働省
最低賃金法|e-Gov法令検索
労災補償制度について(事業主の方)|厚生労働省
【社労士監修】労働基準法とは?わかりやすく解説|マネーフォワード クラウド
労災補償制度について(労働者の方)|厚生労働省
労働者災害補償保険法|e-Gov法令検索
【社労士監修】労働者災害補償保険法(労災保険法)とは?わかりやすく解説|マネーフォワード クラウド
飲食店の開業に必要な資格と手続きとは?|Foodist Media(フーディストメディア)
雇用保険制度の概要|厚生労働省
【保存版】飲食店の労務管理でやるべきこと一覧を徹底解説!|オフィスのミカタ
雇用保険法|e-Gov法令検索
雇用保険制度について(求職者の方へ)|厚生労働省
【社労士監修】パートの有期雇用契約をわかりやすく解説|jinjer(ジンジャー)
労働契約法|厚生労働省
労働契約法|e-Gov法令検索
飲食店開業に必要な手続きまとめ|三井住友カード
労働契約法の概要|厚生労働省
食品衛生責任者養成講習会について|東京都食品衛生協会
食品衛生責任者養成講習会|静岡県食品衛生協会
飲食店開業で必要な防火管理者とは?取得方法や講習内容も解説|KitchenBASE
飲食店を開業する前に必要な防火管理者の届出について|東京消防庁
飲食店営業許可を取得するには?必要書類と申請手順を解説|NTT東日本 BizDrive
【保存版】飲食店営業許可とは?必要な手続き・資格をわかりやすく解説|PayPay店舗メディア
営業許可・届出制度に関する様式|東京都福祉保健局
飲食店開業時の防火管理者とは?必要な条件や届出を解説|開店ポータル
防火管理者制度について|東京消防庁
飲食店における衛生管理のポイントを解説|花王プロフェッショナル・サービス
お店を開く前に必要な飲食店営業許可とは?|食べログオーナー
【飲食店開業】営業許可と保健所手続きの完全ガイド|StartNote(スタートノート)
飲食店開業前のチェックリスト【完全版】|500mails
監修者:原島 純一
プロフィール | 株式会社STAYDREAMの代表。株式会社すかいらーくにて店舗マネジメント、従業員教育などを担当。また、フロアーの新フォーメーションの構築や、新メニュー開発などを経験。2006年にビジネスコーチ、コンサルタントして独立。2008年中小企業診断士の資格を取得。現在は、全国の飲食店の新規開業から、既存店の立て直しなどの支援を実施している。また、「わかりやすい言葉で伝え、明日から実践できる」をテーマに、全国でセミナー講師活動も実施中。 |
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