フードテック(FoodTech)とは? メリットと企業の事例を解説
フードテックとは、最新のテクノロジーを活用し、食の革新を目指す取り組みのことです。近年ではフードロスなどのさまざまな社会問題や消費者の多様なニーズに対応するため、多くの企業がフードテックに取り組んでいます。本記事では、フードテックとは何かについて、飲食店の経営者向けに分かりやすく解説します。
目次
フードテック(FoodTech)とは
フードテック(FoodTech)とはFoodとTechnologyを組み合わせた造語です。
食品分野での新しい技術やビジネスモデルを指します。フードテックがカバーする具体的な領域は、食料生産をはじめ、開発、調理、加工、販売、配達など多種多様です。詳しい内容は後述しますが、フードテックの技術には、例えば以下のようなものが含まれます。
- 食料生産システムや調理システムの自動化
- 植物を原料とした代替肉など新しい種類の食品開発
- フードロスを抑制する技術の開発
これらの技術は、食品の供給をより効率的かつ持続可能な方法で実現するために開発されています。そのため、フードテックはSDGsの文脈で言及されることが多いです。また、フードテックは、食品業界における生産性の向上を実現するとともに、食品業界に新たなビジネスモデルやチャンスをもたらします。消費者に対しても、より多様かつ健康的で安全な食事を提供することが期待されています。
フードテックの市場規模
フードテックの市場規模は、世界的に急拡大している状況です。農林水産省の資料「フードテックをめぐる状況」によれば、フードテックへの世界の投資額は、2020年時点では278億ドルだったのが、2021年には517億ドルまで拡大しています。特にアメリカは2021年時点で210億ドルも投資しており、この分野へ非常に力を入れていることが明らかです。
世界的に見た場合、日本はフードテックへの投資に関して後れをとっている状況ですが、それでも市場規模は拡大傾向です。農林水産省の別資料によれば、日本国内のフードテック市場規模は、2020年時点で約24兆円とされていますが、2050年までにはその10倍以上に当たる279.2兆円まで拡大すると推計されています。
市場の成長要因としては、世界人口の増加による食糧需要の増加、フードロスなどの社会問題への関心、食に対する消費者の価値観の多様化などが挙げられます。例えば、最近ではSDGsなどへの関心の高まりもあり、オーガニック食品などの健康や環境に配慮した食事を求める人が増加傾向です。食品開発に必要なバイオテクノロジーやデジタル技術が急激に進化していることも大きな影響を与えています。これらの要因により、フードテックに寄せられる関心や期待は今後ますます強くなっていく見込みです。
フードテックの活用シーン
フードテックによって実現が期待されていることは、多種多様です。以下では、フードテックによって、どのようなことができるのかを紹介します。
代替食品の開発・製造
代替食品の開発・製造は大きな期待が寄せられている分野です。最新のバイオテクノロジーを活用することで、例えば大豆などの植物から食肉に似た食感や風味を味わえる代替肉を開発できます。遺伝子の突然変異を人為的に起こして効率的に品種改良をしたゲノム編集食品、牛などの動物から採取した細胞を培養する細胞性食品(培養肉)なども注目されている新しい食品です。さらに、コオロギやバッタなどの昆虫食もタンパク質や脂質の補給源として期待されています。これらの代替食品は、動物性食品と比べて環境に優しく、健康にも良いとされており、消費者の健康志向や環境意識の高まりに対応したものです。
人の健康促進サポート
フードテックは、人々の健康をサポートするためにも活用されています。例えば、テクノロジーの力でパスタの栄養素を操作して、人間に必要な栄養を満遍なく摂取できる完全栄養食を作る取り組みなどがあります。栄養素を自由にコントロールできるようになれば、食物アレルギーなどの体質に対応した食品も作れますし、宗教や信条などの理由から動物の肉を食さないベジタリアンでも、不足しがちな栄養素を摂取しやすくなります。また、AI技術などを用いて個々人の健康状態などを把握し、その人に最適化(パーソナライゼーション)された食事を提供することなども期待されている取り組みです。
調理技術の革新
フードテックは、食品そのものの開発だけでなく、調理技術の革新にも貢献しています。例えば、飲食店や介護現場、一般家庭などで幅広く活用される調理ロボットやスマートキッチン、3Dフードプリンターなどもフードテックの成果のひとつです。あるいは、食材の性質を分子レベルで研究し、化学反応や物理現象を利用して味や風味、形状などを操作する「分子ガストロノミー」という研究分野も新しい調理技術として近年注目を集めています。これらの調理技術の革新は、調理作業にかかる人の負担を減らすだけでなく、新しい食文化の誕生にも寄与するものです。
中食・外食産業の成長
フードテックは、中食・外食産業の成長にも寄与しています。例えば近年では新型コロナウイルスの感染防止のために店内での飲食が控えられた影響で、テイクアウトやデリバリーなどの中食の需要が増しました。
そこで活用されたのが、オンラインでフードデリバリーを頼めるアプリや、モバイルオーダーなどのシステムです。これらのデジタルなシステム開発も、食に関わるという意味ではフードテックに含まれます。コロナ禍を通して、中食・外食産業においてもIT活用の機運は高まり、業務効率化や顧客サービスの充実のためにテクノロジーを利用する店舗が増えました。
フードテックのメリット
フードテックが活用されることで、以下のような社会的課題を解決できます。
食料不足問題の解消
今日、世界人口の増加に伴って将来的に深刻な食料不足問題が生じることが懸念されています。特に穀物や食肉などは、需要が大幅に増えることが予想されている食品です。その点、健康や環境に優しく、効率的に生産できる代替食品の開発などを通して、フードテックは世界の食料不足問題を解消することに貢献できます。より効果的な飼料の開発や、農業用ロボットを活用した自動化などによって農業技術を革新し、生産力を向上させることも、フードテックによって期待されていることです。
フードロス解消
世界には飢餓や貧困に苦しむ人々がいる一方で、日本などの先進国では大量の食品がゴミとして廃棄されているのが現状です。こうしたフードロス問題はSDGsにも関連しています。日本では食品リサイクル法の基本方針および第四次循環型社会形成推進基本計画において、2030年度までに事業系および家庭系の食品ロスを2000年度比50%減することが目標とされています。その点、フードテックによって、食品の配送や保存の方法を改善したり、食品自体を腐りにくいように人工的に操作したりすることで、消費期限切れなどによるフードロスを減らすことが可能です。
人手不足の解消
農業や漁業、飲食店や流通業など、食に関わる産業は深刻な人手不足が指摘されています。フードテックによって農業用ロボットや調理ロボット、配膳ロボットなどを開発することで生産や加工、調理などの業務を自動化すれば、人手不足に対応しやすくなります。特に少子高齢化が進行している日本では、今後こうしたITやテクノロジーの活用によって自動化・省人化を進めていく必要性はますます高まってくる見込みです。
「食べログオーダー」を導入して業務を効率化
飲食店の人手不足を解消するためには、モバイルオーダーシステム「食べログオーダー」の導入をおすすめします。これを導入することで、スマートフォンを使ってお客様自身が直接料理を注文できるので、接客業務の負担を減らし、人手不足の問題を改善できます。
多様化するニーズへの対応
近年、健康志向やアレルギー対応など食に関するニーズの多様化が進んでいます。フードテックは、多様化する消費者ニーズに対応できます。例えば、糖質制限やベジタリアン、ヴィーガン、宗教上の禁忌など、特定の食生活に対応した代替食品の開発・提供をすることで、各個人のニーズや思想信条を尊重したうえで、健康上の問題を回避することが可能です。このように多様なニーズに対応することは、新たなビジネスチャンスにもつながります。
食に関する安全面の確保
フードテックは、食品の品質管理や安全性の確保にも貢献しています。例えば、食品の保存方法を技術的に改善すれば、食材が傷むことを防ぎ、食中毒などのリスクを減らすことが可能です。製造工程における腐敗や異物混入などのリスクに対しては、食品の衛生状態や異物などを自動的に監視・診断できるシステムの活用などによっても対策できます。昨今では食の安全性に関心を持つ人が増えているため、この領域でもフードテックの活躍が期待されています。
フードテックのデメリット
フードテックにはさまざまなメリットがある一方で、デメリットが存在するのも事実です。大きなデメリットとして、開発費や人件費、光熱費などの膨大なコストがかかることが挙げられます。
新しい技術や食品の開発には、多くの投資が必要です。例えば代替肉製品の開発には、独自の食品加工技術などが必要なので、その研究開発に取り組むためには、高度な設備や専門人材をそろえることが欠かせません。そのため、フードテックは資金力や人材が乏しいスタートアップ企業や中小企業にとって参入障壁が高く、新規の市場参入が困難であるという問題があります。
フードテックの注目事例5選
最後に、現在注目されているフードテックの開発事例を5つ紹介します。
事例1. 植物肉の開発
あるベンチャー企業は、大豆を使って本物の肉に近い植物肉を開発することに成功しました。大豆を使った代替肉は以前から存在しましたが、味や食感に違和感があったり、大豆特有の臭みがあったりと、多くの課題があるのが実情でした。同社はこれらの課題を独自技術によって解決し、今では大手の食品メーカーやハンバーガーチェーンで採用されるまでに至っています。
事例2. 昆虫食品の開発
あるフードテック企業は、食用コオロギを粉末状に加工した昆虫食品を開発しました。この商品は煮干しや干しエビのような風味をしており、タンパク質などの栄養素が非常に多く含まれているのが特徴です。畜産と比べて少ない餌や水で生産できるのも魅力です。同商品は選択制のメニューとして全国で初めて学校給食にも提供されるなど、大きく注目を集めています。
事例3. 培養肉の開発・販売
ある海外企業は、鶏由来の細胞性食品(培養肉)を開発することに成功しました。この培養肉はすでにシンガポールでナゲットへ利用することが承認されており、実際に食べた多くの人から、従来の鶏肉と同じかそれ以上の味であると高い評価を受けています。培養肉にはコストや大量生産などの課題が残っていますが、多くの企業が開発に取り組むことで、そうした課題が解決されることが期待されています。
事例4. AI調理ロボで人手不足を解消
ある国内企業は、世界で初めてパスタを自動調理できるロボットを開発しました。この調理ロボットはパスタを調理するための一連の工程から盛り付け、鍋の洗浄までを正確かつスピーディにこなしてくれるため、キッチンスタッフの省人化や調理品質の均一化などの効果が期待できます。すでに実店舗へ導入されており、多くの人においしいパスタを提供しています。
事例5. AI食で食をパーソナライズ
ある国内企業は、ユーザーの身体データや食事データを収集してAIが解析するスマホアプリを開発しました。AIは上記のデータからユーザー個々の体に適した食材や食事プランを提案してくれます。このAI食を利用することで、データに基づいて個人に最適化された健康的な食事を取ったり、ダイエットを無理せず計画的に行ったりすることが可能です。
まとめ
代替食の開発や農業技術の革新、調理技術の自動化など、フードテックが実現できることは多種多様です。将来的な食料不足問題や、食に関する価値観の多様化などを受けて、フードテックにかかる期待はますます大きくなっています。SDGsの観点から見ても、ビジネスの観点から見ても、今後フードテックがどのような展開を見せていくかには要注目です。
参考URL
フードテックとは? 意味やメリット、企業の事例を徹底解説!|【SDGs ACTION!】朝日新聞デジタル
フードテックとは?世界的に深刻化する食糧問題を解決する最先端テクノロジー|NEC wisdom
フードテックとは?その意味からSDGsとの関連性まで解説【注目企業も】|いろはに投資
フードテック分野の投資|農林水産省
2050年までに市場規模は10倍以上!「フードテック」の基礎知識と国内外の活用事例|フードラボ
フードテックに係る市場調査|農林水産省
ゲノム編集食品について|コープデリ連合会
楽しく悩んで、食の未来を変える ~「培養肉」研究の最前線~|Science Portal - 科学技術の最新情報サイト「サイエンスポータル」
培養細胞による食品|食品開発提案企業【清田産業株式会社】
フードテック(FoodTech)とは?注目される背景や注力している企業を解説します|GeeklyMedia(ギークリーメディア)
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世界的に注目されるフードテックとは?活躍が期待できる分野を解説 | 農業と食のコラム|名古屋農業園芸・食テクノロジー専門学校
フードテック(FoodTech)とは?主な領域や注目企業・サービスを紹介! |QEEE
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監修者:太田とよしき
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