飲食店経営に重要な「人時売上高」とは? 計算式や目安、上げ方

飲食店の健全経営において重要視される「人時売上高」について、指標を知ってはいても充分に経営に活かせていないとお悩みの方も多いのではないでしょうか。この記事ではそのようなお悩みを抱える方に向けて、「人時売上高」の重要性からその計算方法、人時売上高向上のための施策をご紹介します。

目次

人時売上高とは?

人時売上高(にんじうりあげだか)とは、従業員一人が1時間に生み出す売上を指します。

主にシフト管理が必要な飲食店などで重視される経営指標です。店舗の生産性や経営の健全性を分析するのに用いられており、人時売上高が高ければ、少ない労働力で多くの売上を生み出していると判断できます。

人時生産性との違い

人時売上高と似た用語に「人時生産性」があります。どちらも店舗経営の指標として用いられることが多いため混同されがちですが、両者には明確な意味や役割の違いがあります。

人時生産性とは、従業員一人が1時間に生み出した「粗利(売上額から原価を引いた値)」のことです。1時間当たりの粗利を測る指標として使われ、店舗の生産性把握のほか商品の価格設定のためにも使われます。

人時生産性も人時売上高と同じく、基本的には高ければ高いほど良い指標です。人時生産性は以下の計算式で算出できます。

人時生産性 = 粗利高 ÷ 総労働時間

飲食店における人時売上高の重要性

飲食店経営において、人時売上高を経営指標に用いるメリットは実にさまざまです。

人員配分の目安になる

まず、人時売上高の活用により、シフトを組む際の人員配分の目安がわかります。

・完璧に組んだと思ったのに、人が足りなくて注文をさばききれない ・人員が多すぎて、手の空いたスタッフが出てしまった

シフト管理における上記のミスは決して珍しくありません。しかし、このようなミスが蓄積されるとチャンスロスの原因になったり、人件費の浪費につながったりしてしまいます。ミスが定常的に発生するようであれば、店舗経営にも悪影響が出てしまいかねないので改善が必要です。

シフトの人員配分を最適化する際に有効なのが、一日の総労働時間の算出です。目標の売上高を人時売上高で割れば計算できますが、従業員の総労働時間を出しておけば、その時間内に収まるようにシフトを組めます。 たとえば、平日と土日で売上高が違う飲食店では、次のように一日の総労働時間を算出します。これを基にシフトを組めば、理想的な人員配分が実現するでしょう。

  • ①平日:売上高予測150,000円、人時売上高5,000円の場合の一日当たりの必要労働時間
    150,000 ÷ 5,000 = 30時間
  • ②土日:売上高予測200,000円、人時売上高5,000円の場合の一日当たりの必要労働時間
    200,000 ÷ 5,000 = 40時間

従業員のスキル差は多少あったとしても、大まかな目安として必要労働時間分の人員を配置することで、適切なシフト設定につながります。

サービスを見直すために活用できる

人時売上高はサービスの改善にも活用できます。一般的に人時売上高は高いほうが良いとされていますが、あまりに額が大きいとお客様にサービスが行き届いてない可能性を考慮しなくてはなりません。

「人時売上高が大きい」ということは、すなわち「少ない労働力で売上を上げている」ということです。少ない人数でお店を回せていれば問題ありませんが、従業員一人当たりの負担が大きい場合、オーダーや会計に時間がかかってしまっているといった問題が発生しているかもしれません。 もしこうした問題が発生しており、サービスの質が担保されない状態が続けば、顧客満足度を下げてしまいます。結果、中朝的には客離れを起こしてしまうでしょう。このような事態を避けるため、人時売上高が大きい場合も、特定の問題が生じていないか調べ、必要ならサービスの見直しも検討しましょう。

生産性が低い現状を把握するために活用できる

また、人時売上高は業務効率化に向けた各種改善にも活用できます。

日本における1時間当たりの労働生産性について2022年、公益財団法人日本生産性本部は「労働生産性の国際比較2022」を発表しました。 このデータによれば、OECD(経済協力開発機構)加盟38ヶ国のうち日本は27位と低い順位となっており、データが残っている1970年以降で最も低い順位です。このことからも、近年では、日本でもより効率的な働き方が求められるようになりました。

そしてここで語られる「労働生産性」は「総労働時間に対する従業員一人当たりの価値産出量」を指しますが、飲食店のみならず広い業界において生産性の程度を測る際に用いられるため、人時売上高と非常に関連性の強い指標です。

この結果を見ても、店舗経営における労働生産性の現状把握は、健全な経営には急務であることがわかります。

飲食店の生産性向上には「食べログオーダー」の導入がおすすめ

飲食店の生産性向上を図りたい経営者の方には「食べログオーダー」の導入をおすすめします。

「食べログオーダー」とは、システムを通じて携帯やスマホからオーダーするアプリです。来店前のお客様に事前オーダーしてもらうため、従業員はテーブルまで足を運んで注文を取る必要がなくなり、オーダー業務のスリム化が実現できます。また、オーダー業務が削減できれば総労働時間も減少するため、人時売上高増にも貢献できます。


「芝蘭 豊洲店」では「食べログオーダー」を導入することで、飲み放題メニューのオーダーの簡素化、オーダーミスの回避に成功しました。これらの業務効率化が実現したことで、人時売上高の向上にも貢献できています。

導入事例 - 芝蘭 豊洲店|食べログオーダー

人時売上高の計算式

人時売上高は、以下の計算式で算出できます。

人時売上高 = 売上高 ÷ 総労働時間

総労働時間はすべての労働者が対象です。店舗で働く従業員には正社員・パート・アルバイトなどさまざまな形態があり、人件費もそれぞれ異なりますが、人時売上高の計算には考慮不要です。

人時売上高の計算例は以下の通りです。

  • ①売上300,000円、総労働時間が100時間の場合
    人時売上高:300,000 ÷ 100 = 3,000(円)
  • ②売上600,000円、総労働時間が150時間の場合
    人時売上高:600,000 ÷ 150 = 4,000(円)

人時売上高だけを比較すれば、②の店舗の方が人時売上高が高いため、生産性も高いと判断できそうですが、従業員一人当たりの業務負担が過大でないか考慮する必要があります。

人時売上高の目標となる目安は?

人時売上高は飲食店の場合、おおよそ3,000~4,000円程度です。しかし、3,000円程度の人時売上高では生産性が低く、粗利率によっては赤字経営になってしまうこともあります。 また、客単価が一般的な飲食店で8,000円を超えるような人時売上高を目標としてしまうと店舗従業員数の削減につながります。結果、サービスが行き届かない状況が生まれやすくなるでしょう。 こうした状況を踏まえ、人時売上高の目標額はまずは5,000円に設定することがおすすめです。

人時売上高の目標額が決まると、1日の労働時間の大まかな目標が決まります。たとえば売上が30万円の店舗で人時売上高を5,000円にするためには、300,000 ÷ 5,000 = 60(時間)の労働時間となります。つまりこの規模の店舗を経営している方なら、「スタッフと協力して60時間の労働時間で運営できるように努めればよい」とわかります。

人時売上高の上げ方

計算式を見れば、人時売上高を伸ばすには「店舗の総売上を伸ばすこと」「従業員総労働時間を減らすこと」がポイントであるとわかりますが、実際にどのような施策を講じればよいのでしょうか。具体的な手順は以下の通りです。

人時売上高の目標設定を行う

人時売上高の目標設定を行い、従業員全体で共有することは非常に有効です。目標達成のためには、従業員一人ひとりの努力の積み重ねが大切だからです。従業員全員に目標を共有しておけば、各従業員にとっても具体的な目標ができ、人時売上高を伸ばすためにさまざまな手立てを打って、店舗の売上に貢献しようと考えるでしょう。目標共有と同時に具体的な改善方法やアクションについても周知することも重要です。

業務を見直し無駄をなくす

総労働時間の削減には、人時売上高を活用した人員の削減・適正化や適材適所の人員配置だけでなく、業務効率の見直しも必要です。シフト調整や従業員個人のマンパワーによる効率化だけではなく、抜本的に業務を見直しましょう。

具体的には無駄な業務の削減・IT化による業務の自動化が挙げられます。作業自体の工程が簡略化されれば、必然的に総労働時間の削減にもつながり、人時売上高を効率的に伸ばせます。

「食べログ店舗会員」を導入して業務を効率化

業務効率化を図るひとつの手段に、「食べログ店舗会員」の導入がおすすめです。無料の「食べログ店舗会員」になると、食べログサイト内で店舗を紹介できるだけでなく、手軽にネット予約システムを導入できます。

電話での予約や予約変更・キャンセルなどの対応と違い、他業務の途中でわざわざ手を止めて時間を割く必要がないので、業務にかかる時間の削減・効率化が可能です。


作業手順書を準備する

作業手順書とは作業の具体的な方法や工程をまとめ、誰でも再現性のある作業ができるようにするためのマニュアルです。作業手順書は新人教育時に、特に有効性を発揮します。

通常新人が入ってくると、人時売上高は一時的に下がります。これは入ってきたばかりの新人は効率的に業務をこなすことが難しいうえに、教育に他の従業員の労働時間を割く必要があるからです。 しかし、こうしたリスクを恐れて新人採用を見送ると、人員不足による支障が出てサービス低下を招くこともあります。マニュアルによって従業員を効率よく教育し、いち早く特性に合った業務を任せることで人時売上高の向上につなげましょう。

見える化により効果測定を行う

人時売上高向上の施策を講じた後は、そのまま放置せず定期的な効果測定を継続しましょう。勤怠管理システムから各従業員の労働時間を把握し、「業務内容の見直しや人員配置の効果が出たか」を数値化し分析します。一見地味な作業ではありますが、こうした地道な分析・改善の繰り返しこそ、人時売上高向上の近道です。

まとめ

人時売上高は、飲食店が健全な経営を続けるためには欠かせない指標です。活用することで、人員の適正化やサービスの改善、自店の生産性の把握などが可能になります。 人時売上高を向上させるには、「売上を伸ばす」「労働時間を減らす」ための施策が必要です。単に人員削減や個人の能力に任せるのではなく、システムの導入などで業務のスリム化・効率化を目指しましょう。

参考URL

人時売上高とは?飲食店には欠かせない重要な経営指標について解説 |ビズクロ
人時売上高とは?飲食店における人員数の決め方と計算方法|USENの開業支援サイト|canaeru(カナエル)
飲食店は「人時売上高」を重点指標の1つとして設定すべき|CASIO HANJYO TOWN
飲食店の「人時売上高」という経営指標を知っていますか?|ご贔屓ナビKao 花王プロフェッショナル・サービス
飲食店における重要な経営指標、人時売上高(にんじうりあげだか)って何? |FOOD-IN(フーディン)〜未来のレストランをつくる〜
人時生産性とは?算出するための計算方法と向上させるためのポイント|MITERAS(ミテラス)
労働生産性の国際比較|公益財団法人日本生産性本部
OECD(経済協力開発機構)|経済産業省
労働生産性の国際比較2022 | 調査研究・提言活動|公益財団法人日本生産性本部
人時売上高は5,000円が合格ライン|ぐるなびPRO
【タイムカード】人時売上高とは|note ヨーロッパ放浪者のレジブログ
注目すべき経営指標「人時売上高」とは?飲食店の生産性を上げる方法|船井総研フードビジネス支援部
人時生産性とは?計算式と改善するための3つのポイント|COMDEC LABコムデックラボ

監修者:原島 純一

プロフィール

株式会社STAYDREAMの代表。株式会社すかいらーくにて店舗マネジメント、従業員教育などを担当。また、フロアーの新フォーメーションの構築や、新メニュー開発などを経験。2006年にビジネスコーチ、コンサルタントして独立。2008年中小企業診断士の資格を取得。現在は、全国の飲食店の新規開業から、既存店の立て直しなどの支援を実施している。また、「わかりやすい言葉で伝え、明日から実践できる」をテーマに、全国でセミナー講師活動も実施中。

サイトURL

https://c-staydream.com/

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